OMC Tokyo Blog

ミレニアル世代のインサイト研究/マーケティング戦略/社会学的行動

Z世代にとって、リアル店舗はどういう意味があるのか?ブランドにとってのリアル店舗活用事例<その1>

 Z世代に照準を当てたブランドにとって、リアル店舗にメディア的な要素を取り入れることは、非常に重要なスイートスポットとなる。彼らは、最初の真にデジタル・ネイティブな世代であり、従来の店舗やメディア形式に対する固定観念は薄れつつある。デジタル空間のたまり場、気まぐれな繋がり、ポップカルチャーが散りばめられた遊び場のハイブリッドな世界は、リテールテインメント(リテールとエンターテインメントを合わせた造語)を進化させ、ゲーム感覚を増幅し、ブランドに生きた声を提供してくれる。

<リーテイルテインメントの創造>

小売り体験に発信手段を組み入れることは、消費者につながるもう一つの機会を提供するというだけではない。それは、ブランドに自由を与えるということであり、単に購入履歴だけではなく、興味、ライフスタイルや主張に基づいたより長期的な関係を構築するという義務を負わせることでもある。 ポッドキャストを発信しているファッション・ハウスから、ポップカルチャーを活用した病みつきになるアプリベースのショッピング・ショーといった次世代のリーテイルテインメントにいたるまで、それはコンテクスト、また場合によっては、透明性が増幅された新しい世界である。

 

<美の雑音を切り裂く>

ポッドキャストは、動画の高い製作費と比べると1リーチ当たりの消費額という意味では割安である。カスタマイゼーションとトリートメントのスペース以外に、ニューヨークのSaksにある新しいビューティー・フロアーでは館内ポッドキャ ストを聞くことができる。ニューヨークに拠点を置くBase Beauty Creative Agencyの創業者であるジョディ・カッツは、彼女のショー「Where Brains Meet Beauty(現在アップルのファッション& ビューティーポッドキャストのインデックスで18位)」で毎月エピソードを紹介している。同様に、フランスのビューティー・チェーンのセフォラは「Glowing Up」というコメディタッチのビューティーポッドキャストのライブ録音をいくつかの米国の店舗で行った。また、#LipstoriesというGirlboss Media で口紅のコレクションを販売促進するため、6部構成のポッドキャスト・シリーズも提供した。

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WHERE BRAINS MEET BEAUTY

WHERE BRAINS MEET BEAUTY

  • Jodi Katz
  • Fashion & Beauty
  • USD 0

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<社内の情報をポッドキャストで配信>

社内の名物社員やチームを外部の聴衆に売り込むことは、透明性を重視する10代と結び付くのに、ますます貴重な施策となるであろう。彼女たちは自分が組しているブランドの内側にいる人たちを綿密に調べ、自分のキャリア目標の達成についての理解を深めたいと思っている。2018年、米国のデパートのバーニーズ・ニューヨークは、CEOのダニエラ・ヴィターレをはじめバーニーズの幹部社員間の会話シリーズ、「バーニーズ・ポッドキャスト」を始めた。シーズン2では、US Glamourの前編集長であるシンディ・リーブがホストを務めた。「グッチ・ポッドキャスト」では、クリエイティブ・ディレクターであるアレサンドロ・ミシェルの協力を得て、クリエイティブのスタッフとの会話を特集した。一方、フランスの高級ファッション・ハウスのメゾン・マルジェラの「The MemoryOf... with John Galliano」では、新製品にまつわるインスピレーションに スポットライトが当てられている。

 

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The Barneys Podcast

The Barneys Podcast

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Gucci Podcast

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<本社のブロードキャスティング- フロントとフラッグシップセンター>

英国ベースのファッション小売店マッチズ・ファッションは、ロンドンのフラッグシップ店の一つのフロアー全てをメディア開発専用にした。それは、店内の全てのイベントをライブ・ストリームとポッドキャストで発信してアーカイブ化し、その活動をデジタル・メディアにまで拡大している。同様に、ワシントンDCのライン・ホテルは、そのロビーからライブで芸術、食べ物、政治などについて放送する「フルサービス・ラジオ」というコミュニティのラジオ局をもっている。それは、ガラスの部屋から放送しその重要性を強調している。

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<信頼できるポップカルチャーの衝突>

米国のアプリNTWRKは、(主として)Z世代向けに「QVCがコミコンと出会う」と宣伝している。それは、短編(15分)と長編(1時間)の動画配信で、熱心な視聴者に売り込むために小売り、メディアとハイプ文化を混ぜ合わせたものである。彼らは、ポップカルチャーの広い範囲から有名人を迎え、商品や限定版を一緒になって生み出そうとしている。それは、プライムタイムのシェフとハードコアのラッパーを組み合わせるというようなものだ。 アプリにワンタッチでショッピングができる機能がついており、うまく機能している例もある。ナイキと米国のファッション・デザイナーでありHypebeastのラジオショー「Business of Hype」のホストでもあるジェフ・ステープルのコラボは、ほんの10秒間で20,000点の商品を売り上げた。一方、米国のトレーナー・ブランドの K-SwissのClouds & Dirtスニーカーは、その独特な配色で、3分もかからずに1,000足を売り上げた。長編の配信の中には、優秀な脚本チームがサポートしているものもある。


セミプロデュースされたスイートスポット>

ジェニー・キグレイ-ジョーンズは、UK YouTube向けクリエーター/インフルエンサーマーケティング・エージェンシーであるDigital Voicesの社長である。商業的なコンテンツに対するこのハイエンドのアプローチは、多くのブランドがソーシャルメディアで「子供市場に向けて」アプローチしようとした時には見逃されてきた機会であると、彼女はStylus誌に述べている。物事はかっこいいものか、正真正銘の「本物」である必要があるいと思い込んでいると、ブランドは大きく機会を失っていることになる。若い人たちが本当に欲しいと思っているのは、上手に構成されたコンテンツなのだ。それが十分考えられプロデュースされていると、彼らは、喜んで長い時間見てくれるものだ。

 

”ブランドは、一つのトピックに対して何かを行ない、そしてそれを捨てて次に移っていくことが多い。人は何かのアイデアを学びフォローしたいと思うものなので、シリーズものはうまくいく。6話続けるつもりがないなら、試しに始めるのはやめるべきだ”

Digital Voices社長ジェニー・クィングレイ-ジョーンズ

Jenny Quigley-Jones, managing director, Digital Voices

 

<組織化されたメディアとエピソード的な小売り>

チャネルを合わせ、使い切る賢い小売店は、予測可能性を少しでも取り戻すため、伝統的なカレンダーを使うのではなく、定 期的に限定販売を利用したり、また、外部の文化イベントに合せて自分たちを再編しようとしている。そして、常時メッセージ が溢れる混沌とした時代にその視聴者を呆れかえらせてしまうようなことは避けている。コミットメントと一貫性が大事である。

 

<デジタル限定配信による予約視聴のリブート>

決まった時間にチャネルを合わせる予約視聴は、クイズ・ゲームのHQ Triviaのようなアプリや「限定版」文化の不断の増加により、再び盛んになってきた。2018年10月、バーバリーは定期的な限定品販売で新しい試みを始めた。英国の高級ブランドのBシリーズは、毎月17日に新製品や期限限定品を独占的にインスタグラム、ウィーチャット(中国)、カカオ(韓国)、ライン(日本)のソーシャルメディア・チャネルを通してフォロワー向けに販売している。

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米国のスニーカーブランドであるM.Gemiも、視聴者がクリエーターといろいろなスタイルについて話合ったりることができるストリーミング・ツールであるインスタグラムライブを使って毎週月曜日に限定商品の販売を行っている。チャネルを合わせる人は普通より早くアクセスでき、他の熱心なファンと二度と来ない瞬間を共有できるという感覚を得ることができる。2018年5月、米国のファッションとビューティ業界のメディア・プラットフォームであるGlossy は、限定品販売でM.Gemiのサイトへの月曜日のトラフィックは51%増え、売上は20%増加したと報道した。

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<限定品販売は季節を問わない販売>

ファッション小売り業の80%は、季節を問わないことで、売上を増やした(「Retail Week」、2017年)。これを受けて、H&Mのオンラインのみのファッション・ブランドであるNydenは、季節別および通常の製品のグルーピングをやめ、自社のチームがデザインした、あるいは新しいファッションを流行させるために選ばれたグループと共同して製作した製品を定期的に限定販売することにした。

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<繰り返しのリズム>

注目すべきことに、NTWRKは、その創設者であるアーロン・レバントが「繰り返しのリズム」と呼ぶものをベースとして、特定のジャンルやトピックを繰り返し発信している。

 

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thentwrk.com

 

ポップカルチャーのカレンダーのアクティブ化>

2018年に、急成長している英国のファッションブランドMissguidedは英国のヒット・リアリティTVのショーである「ラブ・アイランド」とパートナーを組み、競技者には服を提供し、視聴者には直接購入する手段を提供するようにした。ユーザーがラブ・アイランド・アプリの「スタイル」ボタンを押すと、競技者のMissguidedの服の写真が小売りのリンクと共に現れる。この方式で、ショーが始まる8週間前と比較して、売上は40%増え、いくつかの商品の売上は500%の伸びを示した。 <ゲームに集中し、快適域を超える> 大量のマルチプレイヤー・オンライン・ゲームが、そのサーバーに何百万人もの人を集め、体験を共有している。ゲームは国境を越えているのである。バトル・ロイヤル・ゲームのフォートナイトは、ゲームの世界では最大のタイトルの一つである(米国の61%の10代がプレーしたことがあると言う。インスタグラムを使ったことがあると報告している74%にも近い数字である)(「 Common Sense Media」、2018年)。2019年2月1日には、何百万人ものライブ視聴者を引き寄せた。それは、お互いに戦うというのではなく、米国のミュージシャン、Marshmelloの10分間のコンサートを見るためだった。セットは、インタラクティブになっており、プレーヤーは自分を放送に出演させ、ショーの舞台効果の一部になることができた。公式のYouTube録画は、以来2,900万人の視聴者を集めている。10代のゲーム愛好者は、高品質の体験ができることには業界を超えてオープンであることを示している。

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ニューウェイブSNS
インタラクティビティーがコンテンツを変貌させる 10代は、視聴者を集めることに的を絞ったソーシャル・プラットフォームから自分が体験に影響を与えることができるものに移っていっている。それは、英国の消費者心理学者のポール・マースデンが、FANGフェースブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグル)からBATS(バイドゥ、アリババ、テンセント)への動きと記述しているものである。このシフトは、コントロールに飢えたZ世代がいかにインタラクティビティーの積極的な作用に価値を置き、自分の使うプラットフォームを自分でいじることを期待しているかを反映しているものである。ゲームに的を絞ったライブ・メディアは、インタラクティビティー をそのフォーマットに組み込んでおり、ダイアル・アップで商品販売を行全てのブランドに貴重な教訓を提供している。この中には、現代の10代に蔓延する不安を助長するオンライン活動のネガティブな側面に対抗するために、歓迎され共有できるe空間を生み出すことが含まれる。


ヒエラルキーの崩壊>
アマゾンが所有するゲームのライブ・ストリーミング・アプリであるTwitchは、ファン、プレーヤー、ブランド と一緒になって多くのマス・インタラクティブな機能を開発してきた。視聴者が発信者と直ちにつながるという感覚とそのコンテンツは、プラットフォームのロケット燃料である。ストリーマーと視聴者の間のインターアクションは、2017年の190億回から2018年には300憶回にまで増えた(「Fast Company」、2019年)。

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<Z世代の最若手を取り込む>
群衆のインタラクティビティーは、エピソード的な小売りと組織的なメディア・セクションで書いた NTWRKの戦略に似て、原稿が半分だけ書かれた物語にも広がっている。Super Funiverseは、子供向けのTwitchのチャネルで、現在インタラクティブな操り人形のショー「エムの冒険」を流している。子供は(非常に制約はあるものの)チャットで人形のホストと直接会話することができる。ショーは、視聴者がキーとなる瞬間、どのように進むべきかを投票できるようになっており、枝分かれした道を進むことになる。 <バーチャルなたまり場 - 透明性が新潮流のSNSを勝ち取る>
米国ベースの動画チャット・アプリであるSquadは、ユーザーが自分の携帯上で起こっていることを最大6人まで、スクリーンで共有することができる。これにより、10代は、物理的な空間で集まることなく、Tinderマッチについて話合ったり、ショッピングに一緒に行ったり、YouTube動画を見たりすることができる。ユーザーは少人数の信頼できる仲間とフィルターを通さないライブ映像をスクリーンで共有できる。これは娯楽や教育で時を共有するという豊かな取り組みへの道をも開いてくれるであろう。実生活上(IRL)の活動についての更なる詳細は、「場面を作る」を参照のこと。 「Z世代では、ナルシズムは急激に少なくなっている。彼らは、多くの狡いやり方があることが分かっているために生じる不安の問題をより多く抱える傾向にある。ブランドは、コミュニケートする手段を提供することで、繋がりの機会を創り出すべきである。自分のアイデンティが損なわれたと思う人たちを救う術である。」

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